A君は他人を警戒するようになりました。
(ここがどこだか分からないけれど、少なくとも初対面の人に暴力を振るう奴がいる。)
A君は誰かに会っても気軽に声を掛けないことにしました。
ですが、それでは、ここの世界ことが何も分かりません。いつかは誰かに聞かなくてはなりません。
なるべく人の良さそうな人を探すことにしました。
この世の時間に直すと3時間以上経ちました。小学生くらいの女の子を見掛けました。
A君は、今度はゆっくりと近寄りました。そして、言いました。
「ここはどこですか?」
A君の質問に女の子が答えました。
「貴方は誰ですか?」
「僕は死んでここに来たばかりです。まだ何も分かりません。
生きていた頃は○○と言いました。」
すると、女の子が言いました。
「貴方は悪い人だったんですね?」
「悪い人? どういうことですか?」
「ここに来たんだから貴方は悪人なんです。」
A君が驚くと、女の子は大きな声で笑いました。
そして、後ろを向きました。
A君が、何が何だか分からない、と思っていた時、女の子が振り向きました。
そして、また、笑いました。
A君は腰が抜けました。
女の子の顔がおじいさんの顔になったからです。
おじいさんの顔の女の子が言いました。
「わしは80歳で死んだのじゃ。」
「はあ…。」
A君が驚くと、おじいさんの顔の女の子が続けました。
「お前は知らないんだろうが、霊魂は皆、顔を変えられるんじゃ。
服を着ているということは、服を念じたということじゃ。
つまり、この世界は念じればどのようにでも変化する世界なんじゃ。だから、顔も姿も自由自在に変えられるんじゃ。
わしはお前をからかったんじゃ。」
「ええーーっ。」
A君は混乱しました。
女の子だからと安心していたのに、これでは、誰一人、安心して話せないからでした。
おじいさんの霊魂が言いました。
「お前は何も知らん。
このままじゃと、半殺しにされるぞ。」
「もうされました。だから警戒しているんです。」
「そうか。ならば、話は早い。
わしに付いて来なさい。わしの仲間を紹介してやろう。
お前はまだ分かっていないから教えてやる。
ここは地獄ではない。地獄というのは、本当に恐ろしい世界じゃ。
地獄ではない下の世界からここに上がってきた者を知っているが、それでも、大変辛い世界じゃ。
お前は幸せ者じゃ」
「幸せなんですか?」
「そうじゃ。わしに付いて来れば、痛めつけられなくて済む。」
「分かりました。付いて行きます。
ですが、痛め付けられるということは、どちらかというと、下の世界なんですね?」
「まさか。標準じゃ。
上には上があるが、下にも下がある。
普通の人間が死ぬと、皆一度は半殺しになる、それが標準じゃ。
問題なのは、これからじゃ。」
おじいさんの言葉に納得できないA君でしたが、おじいさんはいきなり半殺しにはしませんでした。とにかく付いて行くことになったのでした。

