しばらく歩くと、山の方に建物が見えました。
何と、それは鉄筋コンクリートのようなビルでした。
Aさんはおじいさんに聞きました。
「霊魂の世界にも、ビルがあるのですか?」
「何でもあるよ。建物は全部、念で作ったんじゃからな。ここに住む霊魂の頭の中にあるものは何でも作れるということじゃ。」
「じゃあ、神社でも寺でも作れますか?」
「もちろんじゃ。作ろうと思えばすぐに作れる。でも、作っても意味はない。」
「どうしてですか?」
「誰かに壊されるからじゃ。」
「はあ?」
「仏教や神道が嫌いな者がいての。すぐに消されてしまうんだよ。」
「そうなんですか?」
「教会なんかは一瞬で消されたよ。」
「では、自分の家も消されませんか?」
「それはない。この辺りに住んでいる者達には紳士協定みたいなものがあってな。他人の家は消さない、という暗黙のルールがある。
そうしないと、誰も家が持てないからな。
自分が誰かの家を消せば、相手も自分の家を消してしまう、ということじゃ。」
A君は慣れるまでにまだ時間が掛かりそうでした。
そんなことを話しているうちに、建物の前に着きました。
おじいさんが中に入ると、A君も続きました。
中には、綺麗な若い女性が大勢いました。
A君はびっくりしました。
そして、おじいさんに聞きました。
「ここはタレントの養成所ですか?」
「まだ、そんなことを言うのか。困った奴じゃ。
おい、お前達、この青年に顔を見せてやってくれ。」
おじいさんが言うと、女性達はほほ笑みながら後ろを向きました。そして、A君の方に向き直るのでした。
A君は呆れてしまいました。
10人ほどの若く美しい女性達は、皆、老人だったのです。
老人の中には男性もいました。
驚いて声が出ないA君に、おじいさんが言いました。
「考えてもみろ。死ぬ人のほとんどは老人じゃ。
お前みたいに若くして死ぬ奴の方が珍しい。ということは、ここにいる若者は皆、本当は老人じゃ。
こっちの世界の住人は大部分が老人なのじゃが、皆、若い姿をしているということじゃ。
お前だって、ここに慣れたら、そのうち、タレントみたいな顔にすると思うぞ。」
「僕はしません。僕は嘘をつくのは嫌いです。」
「嘘か、まあいいだろう。」
A君はここにいる人達のことがまだ、あまり分かっていませんでした。

