5 こっちの世界

A君がおじいさんに聞きました。

「ここにいる人達、いえ、霊魂達は、いつも何をしていらっしゃるのですか?」

 

おじいさんが答えました。

「何を、と言われると、何もしていない。」

 

「それで生活できるのですか?」

 

「お前はまだ何も知らんのか。

この世界では食事がいらんのじゃ。お前、腹が減らないだろ。」

 

「はい。そういえば減りません。」

 

「本当は家もいらない。

なぜなら、雨が降らんからじゃ。もちろん、雪も降らん。

太陽が見当たらなかっただろ。

この世界には太陽がない。それなのに、どうしてなのか、明るい。

そうなると、いつまで経っても夜にならない。おまけに、眠くならんときている。

だから、本当は家もいらんのだ。だが、皆、家がないと落ち着かんのじゃ。

食べなくても良い。着るものも、家も、念で出る。

つまり、欲しいものは何でも手に入る。働く必要がないんじゃよ。」

 

「だから、ここで、ただ居るのですか?」

 

「他にすることがないからなあ。」

 

「そんな暮らし、楽しいですか?」

「楽しい?

楽しくはないさ。だが、何もすることがない。

食事もしない。男女の関係もない。この世界では子供ができない。肉体がないからじゃ。

こっちの世界の体はどんな風にでも変わる。だが、生殖機能がない。

何しろ、性欲も湧かないからの。若くても同じだぞ。」

 

「では、人口、いや、なんて言うのか分からないけど、人数は増えないのですか?」

 

「増える時もある。お前が来たからな。」

 

A君は半ば呆れてしまうのでした。

おじいさんが話を続けました。

 

「ここでは、楽しみは何もない。

ゲームもない。

将棋をしても、囲碁をしても、相手が考えると、相手の思いが伝わってくるのじゃ。

相手もこちらの手が読める。つまらないぞ。すぐに飽きる。

その上、テレビもない。

テレビというものは念で出せる。

映れ、と念じれば、映る。だが、実際に放送している訳ではない。

自分の記憶が混乱して、それが映っている、という感じじゃ。すぐに飽きる。」

 

「では、本当に何の楽しみもないのですか?」

 

「ない。何でも出せるが、すぐ、飽きる。」

 

「では、何を生き甲斐にして生きるのですか?」

「生き甲斐?

そんなことを考えていると、悲しくなるぞ。」

 

A君はすでに悲しくなっていました。

 

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